合体変身!ボルダーガイン ―クリスマス編―

「クリスマス会」


 「おい、豪助、道場にこんなピラピラした物飾ってどうするんだ?」
ハーペンが壁に吊るされたリースやカラフルな紙テープで作られたチェーンの飾りをピロピロ引っ張って訊いた。

「こいつは、『クリスマス会』用の飾りさ」
「何? 『クルリンパス会』?」
「クリスマス会だ」
「それって何だ?」
「ツリーを飾って、ケーキを食って、それからサンタクロースが子供達にプレゼントを配るんだ」
「へえ。そいつは何だか楽しそうだな」
ハーペンは大きなクリスマスツリーに飾られた星を見て宇宙を思った。

「そんでもって、今度、ここで子供達を集めてパーティーを開くんだ」
「何? パンティーだって? 恥ずかしい奴だな」
「おまえ程じゃないぞ。パンチラ宇宙人め」
「パンチラとは何だ? おれは仮にも宇宙のヒーローだぞ」
「ほう。仮免許中か?」
「ちがーう! だから、おれは宇宙で最強のヒーロー且つアイドルなの!」
「アイドルっつーたら、やっぱあれだろ?」
「あれとはそれか?」
「そうだ。これさ」
と掛け軸の裏にこっそり隠していた本をそっと開いて見せる。

「おおっ! 何と! これは……! いいのか? こんな……」
と興奮する。
「ふふん。こんなのはまだ序の口じゃ。ほれ、これならどうだ?」
と床を引っぺがして取り出した本をパッと開く。
「うおっ! これはまさしく伝説の……!いや、このようなお宝をお持ちとは……!」
「へへん! どうだ? 驚いたか? 宇宙のハンペン鍋の蓋」
「いいや。まだまだ。聞いておのろけ恥ずかしや」
とわけのわからんことを叫びながらいきなりズボンのベルトに手を掛ける。

「おい、バカ! よせ! 早まるな! おれは、おまえのことをもっと知りたいとは思わない」
「思ってもないことを言うな。豪助。おれとおまえの仲ではないか。見たい時には見たいと言っていいんだぞ。愛を求めたいならそう言っていいんだ。地球人よ。もっと素直になれ。本当はおれだって恥ずかしい。だが、おまえの気持ちに少しでも応えてやりたいんだ。受け取ってくれ。おれの心を……」
と、いきなりベルトを外してファスナーを開き、ぐいと中から何かを引っ張り出した。
「そ、そんな……! おれには、まだ受け入れる覚悟が出来ておらん」
と豪助があとずさる。
「そう言わずにどうか受け取ってくれ!」
と迫る。

「ぎゃああ! やめろ! ハンペン、血迷ったか」
逃げる豪助をハーペンが壁際に追い詰める。と、そこへさわやかなビューティーボイスが流れて来た。
「朝早くから何をそんなに騒いでいる?」
それは、昨夜からここに居候しているオダイコンであった。
「朝だって? もう昼過ぎだぞ。おまえ、まだ宇宙のタイムハゲが治らないのか?」
ハーペンが言った。
「わかっている。だが、睡眠はたっぷり取らないとお肌に悪影響を与える。私は、昼まではたっぷり睡眠を取る主義なんだ」
オダイコンが言った。

「そんなことより、おまえ達の方が騒がしく迷惑であろう」
「そんなこと言ったって豪ちゃんがおれの愛を受け入れてくれないからあ」
とハーペンが言った。
「何が愛だ。バカバカしい! 誰がわけのわからんおでんもどきの愛なんてものを受け取れるものか」
と豪助が怒る。
「それはそうだ。ハーペンが悪い。人に無理強いするのはよくないぞ、ハーペン。メイビー幼稚園のタブン先生だっておっしゃっていただろうが」
「無理強いなんかしてないもん。おれはただ、豪ちゃんが見せてくれた本のお礼にポケットの中の宝物をあげようと思っただけなんだ」
「ポケット? 宝物?」
「そうさ。見ろよ。これは希少な宝なんだぞ。子供の頃に見つけて、ずっと大事に持ってたんだ」
と握っていた手のひらを開いて見せる。そこには微妙に光る石が乗っていた。

「何だ? それは?」
「これは、メイビー星の秘宝。オーデンノモトモト石だ」
「おでんの素だって?」
「ちがーう! オーデンノモトモト石だ。これは万能石で、メイビー星のほとんどの物がこの石の力で動いている」
「さよう。この石はエネルギーに変換出来るだけでなく、加工すればどんな物でも作り出すことが出来るのだ。宇宙船でもアーマーでも、椅子やテーブル、哺乳瓶の素材にも使える。安全で便利な物なのだ」
オダイコンが補足する。
「そうだ。驚いたか? 我がメイビー星の恐るべき石の力に」
ハーペンはガッハッハと腰に手を当てて笑った。
「ふうん。こんなただの石ころがねえ」
豪助がつまみ上げてつくづくと見る。
「それにな、こいつにはもっと知られざる使い方があるのだ」
ハーペンが得意そうに言った。
「このことはストリクト星の奴らにはないしょだぞ」
とゴニョゴニョとその耳元にささやく。
「何! 願えば美女の裸も見せてくれるって? すごいや、兄ちゃん。これはきっと魔法の石だよ!」
いつの間にかいっしょに耳を近づけていたヤキチョバが叫んだ。
「うむ。なかなかあなどれんな」
あとからゆったりと歩いて来たメノンが言った。

「おまえら、一体どこからわいて出た?」
ハーペンが怒鳴る。
「やーね。わいて出たなんて虫みたいに言わないで欲しいわ。ねえ、レージュンちゃん」
「ホント。やっぱりメイビー星人って服の柄もダサイけど、性格の柄もよくないのね、チョクちゃん」
と四角いアーマーの二人もやって来る。
「おいおい。何なんだよ? ここはメイビー星の専属貸し別荘なんだぞ! 勝手に入って来るなんて不法侵入で逮捕しちゃうぞ」
ハーペンが言った。

「何言ってんのよ。今日は町内クリスマス会だからここに集まるようにって回覧板が回って来たから来てやったのよ」
「そしたら、何これ、まともな人間はオダイコン様だけじゃない?」
ゆうとメイもやって来て言った。
「おれも人間なんだけど……」
と言う豪助を無視して女子高生二人はさっさとオダイコンの所に行ってしまう。

「ねえ、オダイコン様、今夜はわたしとダンスして下さいね」
「何言ってんのよ! 抜けがけなんか許さないかんね。オダイコン様、どうぞわたしとロマンティックな夜の語らいを……」
二人から迫られてオダイコンは満更でもなさそうな顔で美しく微笑する。
「夜は長い。どうぞ二人共、ゆっくりとお相手致しましょう」
「きゃあ! うれしいわ」
「ああ、愛しのオダイコン様……」
二人の娘はメロメロだった。
「チェッ。何が夜だよ。まだ昼過ぎなんだかんね」
とハーペンがすねる。

「兄ちゃん、ホント、この石の中にいい物が見えたよ」
ヤキチョバが言った。
「しまった! おい、ヤキチョバ! おれの宝物を返せ!」
ハーペンが怒鳴る。
「やだい! これはいい物だもんね。絶対返してやらないからな」
とヤキチョバが旨の前でキュッと固く握る。
「だめだ! 返せ!」
と取り合っている。

と、そこへはじめ達が賑やかに入って来た。
「うわっ! 早いなあ。もうハンペン達も来てたんだ」
「あれ? ハンペン、何やってんだよ? ケンカしてるとサンタクロースにプレゼントもらえないぞ」
「え? そうなのか?」
「そうだよ。サンタさんはいい子にしかプレゼントをくれないんだ」
子供達に言われてハーペンは大人しくなった。
「それなら仕方ない。だが、ヤキチョバめ、今に見てろよ」
にこにこしながら魔法の石を光にかざして喜んでいるヤキチョバを見るとハーペンはムカついた。
(くそっ! あの顔はかなりいい物を見ているにちがいない。あいつだけにいい思いはさせないぞ)

「ようし! みんなちゃんと揃ったな。では、早速『クリスマス会』を始めよう!」
豪助が言った。
「まずは乾杯だ。メリークリスマス!」
豪助の声に皆も一斉にグラスをかかげて叫んだ。
「メリークリスマス!」

そして、ケーキやお菓子を食べ、子供達のコーラスや劇や楽器の演奏などを楽しんだ。
「みんな、すごいなあ」
宇宙からやって来た連中も皆大喜びで手を叩いたり、ヒューヒュー口笛を吹いたりして盛り上がった。そして、遂にサンタクロースがやって来た。大きな袋からみんなにプレゼントを配る。
「わあ、ありがとう」
子供達が礼を言う。
サンタは気前よく宇宙人達にもプレゼントを配った。

「はいよ。いつまでもお兄ちゃんと仲良くするんだよ」
「ありがとう。サンタさん。兄ちゃん、見て! おれもプレゼントもらったよ」
ヤキチョバがうれしそうに報告する。
「うむ。よかったな。弟よ」
メノンがうなずく。
「そいじゃ、お兄ちゃんにも」」
サンタクロースはそのメノンにもプレゼントを差し出す。
「おれにも?」
「あんた、弟思いのいいお兄ちゃんだからね。サンタさんは何だってお見通しなんだ」
と笑う。
「ありがとう。感謝する」
メノンはうれしそうにそれを受け取る。それから、サンタはチョクやレージュンやオダイコン、もちろん、ゆうとメイにもプレゼントを配った。
リボンの付いた包みを抱え、うれしそうだ。

「あれ? サンタさん、おれのは?」
ハーペンが言った。
「あれ? プレゼントはこれで全部だよ」
と袋を引っくり返して振って見せた。中味はすっからかんの空である。
「えーっ! おれ、まだもらってないよ!」
とハーペンはショックを隠せない。
「そんなこと言ったって終わっちまったもんはしょうがないだろう?」
「しょうがないだって? おれ、ケンカもやめたし、ヒーローだし、プレゼントもらえるにふさわしい人格をちゃんと備えてるのにィ! ずるいよ! ずるいよ! いやだよぉ!」
とじだんだを踏む。
「兄ちゃん、見てよ。いやだねえ。メイビー星人は……。大人のくせにすねてるよ。メイビー星には羞恥心ってものがないのかしら?」
もらったプレゼントのキャンディーをなめながらヤキチョバが言った。

「確かに。見苦しいぞ、ハーペン。貴様も宇宙パトロールの名誉ある隊員だろう」
とカッコよくオダイコンが諭す。
「きゃあ! オダイコン様ってば凛々しい!」
「叱るお姿もまた素敵!」
ゆうとメイが騒ぐ。オダイコンは満足そうに彼女らに流し目を送る。それでまた彼女達はきゃあきゃあ言って喜んだ。

「くっそー! プレゼントもらえないならもういいもんね。おい、ヤキチョバ! さっきの石を返せ! おまえ、一人でかーなーり、いいもん見てたろう? 独り占めなんて汚いぞ! おれにも見せろ! いや、返せ! それはもともとメイビー星のなんだからな」
と無理やり奪おうとする。
「へーんだ。取れるもんなら取ってみな」
とヤキチョバがからかう。
「くっそ! もう許さんぞ! アーマーよ、来い!」
素手では叶わないと見て、ハーペンがアーマーを呼んだ。と、そこへ街のお回りさんがやって来た。
あのバーゲンの時の警官だ。
「メリークリスマス! やあ、みんな盛り上がってるね」
にこにことやって来たその人とハーペンが呼んだアーマーの降りて来た位置が重なった。
「ジャーン!正義の使者、ボルダーガイン参上!」
ガシンとポーズを決めたものの、会場のみんなはしらけていた。


――な、何だ? どうした? 後ろの正面、おまえは誰だ?
アーマーの中から声がした。
「おれは、宇宙のヒーロー、ハーペンだ。君は今、オーデンアームの力により、おれと合体し、ボルダーガインになったのだ」
――何だって? 君はあのおでんなのか? そんな、困るよ。私はまだ勤務中なんだ。そんなボルガイだかホラガイだかわけのわからない貝になんかなっていられないんだ
「これは貝ではない。史上最強のアーマーだ。見よ! ほれぼれするようなこの雄姿を!」
が、そのアーマーは半分おでんで半分は警察官っぽい制服、ベルトはやっぱりちくわ模様でホルダーには警棒がささっている。そうそう。説明が遅れたが、このアーマーは変幻自在。合体した相手により、その能力だけでなく、微妙に装甲のデザインも変化するのだ。
が、どちらにせよ、それはいつもあまりにも微妙な色と柄であった。

「やい、ヤキチョバ! 合体したからには負けないもんね。今日こそおまえをやっつけてやるぞ」
「兄ちゃん、あいつがあんなこと言ってるよ」
「うむ。だが、お兄ちゃんは信じているよ。おまえがちゃんと一人でも戦える強い子だと……」
「メノン兄ちゃん……」
「そうよ。ヤキチョバちゃん、大丈夫よ。みんな、あなたの見方だから……。ねえ、レージュンちゃん」
「そうよ。チョクちゃん。がんばってヤキチョバちゃん。ハンペンなんかに負けないで」
「そうだ。そうだ。がんばれ、ヤキチョバ! おれ達が付いてるぞ」
何故か豪助やオダイコンまで味方している。

「おいおい、何だよ? おれの味方は一人もいないの?」
ハーペンが見回す。
「ぼくが味方になってやるよ」
はじめが言った。
「はじめ……」
「だって、ハンペンの方がずっと弱そうだもん。かわいそうだよ」
――そうだそうだ。弱い者いじめなんか最低だぞ
アーマーの中から声がした。
「最低ったって、これじゃあ、どっちが弱い者いじめしてんだかわかんないよ」
――とにかく、今日はせっかくのクリスマスなんだ。二人共仲直りしなさい
とお回りさんが言った。

「ウウッ! 仲直りったってぇ。そもそもあいつがおれの宝物の石を取ったのがいけないんだぞ」
――そうか。君、人から借りた物はちゃんと返さなくてはいけないよ。でないと、サンタさんからプレゼントもらえなくなってしまうからね
「でも、おれ、もうもらったよ」
――クリスマスは今年だけじゃない。来年もプレゼントもらいたいならね
「そうか。来年もサンタさん来るんだね。わかった。返すよ。それに、よく考えたら、こんな微妙な石いらないや。ストリクトにはもっとピカピカ輝いてるきれいな石があるんだ」
――そうかそうか。それはよかった。それを聞いてお回りさんも安心したよ
と言ったところで合体が解けた。どうやら時間切れになったらしい。

「ところで、あんたは何で来たんだ?」
豪助が言った。
「おお、そうだった。母ちゃんに、いや、サンタクロースに忘れ物を届けに来たんだよ」
「え? お回りさん、サンタさんの知り合いなの?」
はじめが訊いた。
「あ? ああ、まあね。それじゃあ、確かに渡したよ。私はまだパトロールが残っているから……」
とお回りさんは出て行った。
「何だかんだと律儀な人だね」
サンタクロースは渡されたプレゼントの包みを持ったまま感激している。
「あのう、それってもしかして、プレゼントの残りってことじゃ……」
ハーペンが訊いた。
「どうやら、そうみたいだね。それじゃ、あんたにもメリークリスマス! もうすねるんじゃないよ」
とサンタにどんとどつかれてハーペンは包みを持ったまま突んのめった。
その拍子にまたベリッと尻が裂けて、思い切り皆に笑われたが、ハーペンは気にしなかった。その裂け目から覗いているクリスマスカラーのパンツのように、ハーペンは笑い、そこにいたみんなも楽しい気分になれた。

「メリークリスマス!」
豪助が言った。
「メリークリスマス!」
皆が一斉に応える。そして、もう一度みんなで乾杯した。『クリスマス会』は大成功だった。